コロナ禍の巣ごもり需要にも後押しされて電子書籍市場が急拡大するなか、スマートフォンで手軽に読める漫画(コミック)の存在感が一段と高まっている。漫画の編集部を新設する出版社が出てくる一方、先行する社では漫画のアニメやゲーム化などによる権利ビジネスが経営の柱の一つに育ちつつある。電子書籍時代を迎えた出版界のビジネスモデルを変える存在となってきた。 (文化部 海老沢類)
後発の強み
「うちはコミックでは後発中の後発。一つでもコンテンツを増やし、他社にくっ付いていきたい」と語るのは、文芸春秋の吉永龍太・コミック編集局長だ。
文芸春秋は令和元年にコミック編集部を新設し、昨年7月にはその上にコミック編集局も立ち上げた。同社の月刊漫画誌「コミックビンゴ」が平成11年に休刊して約20年。久しぶりに漫画編集の専門部署をつくりヒットを狙っている。
昨年刊行された同社の漫画本は電子と紙を合わせて約30作品。小説やノンフィクションなどの原作が潤沢で、月間4億を超えるPV(ページビュー)を誇るサイト「文春オンライン」に掲載できるのも強みだ。
ゲイとして生き、「運命の人」を求めて奔走する実体験をつづった七崎良輔さんのエッセーを漫画化した『僕が夫に出会うまで』は昨年から今年にかけて文春オンラインで連載され、累計4300万ものPVを獲得。4月22日の単行本発売前にもかかわらず海外から複数のオファーが入り、英語版の出版も決まった。吉永局長は「電子書籍全体の売り上げに占めるコミックの割合は非常に高く、作品を1話ごと売るなど多様な展開もできる。電子に力を入れる上でコミックは重要なコンテンツ」と話す。
電子出版の9割
光文社も一昨年にコミック編集室を新設し、新作コミックの開発を始めている。大手が相次ぎ漫画に参入する背景には近年の出版市場の動向がある。
出版科学研究所によると、令和2年の紙と電子を合わせた出版物の推定販売金額は前年比4・8%増の1兆6168億円。紙の出版物が16年連続で減少する中で電子は同28%増の3931億円と出版市場全体の約24%にまで成長した。この電子出版の87%を占めるのが、前年比約32%増となったコミックだ。すき間時間に手軽に読める漫画はスマホとの相性も良く、社会現象となった「鬼滅(きめつ)の刃」だけでなく〝異世界もの〟なども電子で軒並み好調だ。
紙と電子を合わせたコミックの販売金額は昨年、25年ぶりに最高を更新。出版物の販売額に占めるコミックの割合はこの25年で約22%から約38%に上昇した。こうした中、人気の漫画誌を抱える出版社では、電子コミックを軸に据えた新たなビジネスモデルが生まれつつある。
「鬼滅の刃」の出版元・集英社は、昨年の通期決算(令和元年6月~2年5月)で当期純利益が約209億円と前年度の2倍を超えた。漫画の人気作品を中心とするデジタル収入が40%、版権収入が8%それぞれ前年実績を上回り、書籍や広告などの減少をカバーした。デジタル収入は5年前の約4倍にまで伸びており、同社の出版物全体に占める「電子」の比率は約3割となり、「紙」との差が詰まってきた。KADOKAWAも昨年10~12月期の連結決算で、四半期ベースでは過去最高となる53億円の営業利益を出した。電子書籍や自社アニメの版権許諾ビジネスが好調だったという。
顕著な例が講談社だ。2月に発表した通期決算(令和元年12月~2年11月)は売上高が前期比6・7%増の約1450億円で、当期純利益は50・4%増の約109億円だった。電子書籍は19・4%増の約532億円で、これにアニメ化などの権利ビジネスを合わせた収入は約714億円となり、初めて「紙」の売り上げ(約635億円)を上回った。「収益構造の変化がより一層明確になった」(野間省伸社長)格好だ。
『進撃の巨人』などの人気漫画は電子でも売り上げを牽引(けんいん)。これらの海外でのアニメ化やゲーム化などの版権収入は昨年、30%以上伸びた。「週刊少年マガジン」に連載された漫画『七つの大罪』はスマホ向けゲームとなり、中国や韓国などで大ヒットした。
ネットフリックスなどの動画配信サービスの隆盛も追い風だ。人気小説を漫画化した『虚構推理』は米国の配信会社から「北米向きの作品」と評価されたのがきっかけでアニメ化が実現した経緯がある。昨年度(令和元年12月~2年11月)にTVアニメとなった作品は25本を数え、今年4月からも新たに12本がアニメ化される予定という。
講談社の担当者は「作品の企画段階から海外の業者が加わる例も多く、海外でのアニメ配信も日本とほぼ同時で行われるようになってきている。効率よく作品を世界で売る態勢が出来つつある」と話す。
「ノウハウ」共有を
コロナ禍を受けて東野圭吾さんら人気作家が電子化を相次ぎ解禁した昨年は、小説などの「文字もの」の電子書籍市場も約15%拡大した。だが、漫画に比べて品ぞろえが少ないとの声は根強い。とりわけ少部数の人文書や専門書などの電子化は遅れていて、人気漫画を持つ大手と、それ以外の出版社との二極化が加速する懸念もある。
「電子書籍は一番売れるものに需要が集中しがち。便利な半面、出版の多様性を奪ってしまう傾向もある」。専修大の植村八潮教授(出版学)はそう話した上で「電子出版には一定のコストと手間がかかる。電子書籍の少ない人文・社会学系の専門書なども電子化できるようなノウハウを出版界全体で共有して、豊かなデジタル読書環境を作ることが求められている」と今後の課題を指摘する。
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